Mag-log in
転移で降り立った場所は目的の街からまだ数㎞以上離れた草原。どういうことだ?
「おい、カーズ、なんかえらく離れた場所じゃないか?」
不思議そうな顔をして俺、カーズに尋ねてきたこいつはエリック。この世界ニルヴァーナで最初に仲良くなった冒険者の友人だ。
「変だな……」
「何が? 転移に失敗したの?」俺にそう訊いて来たハーフエルフの女性はユズリハ。エリックとは幼馴染で腐れ縁の冒険者だ。
「いや……、何かの干渉を受けたみたいだ。俺はギルド前に転移したはずなのに……」
無理矢理転移先を捻じ曲げられた様な、奇妙な感覚が残っている。どう考えても他者の介入があった。魔力の波長を変えられた様な感じだ。
「そのようですね……。それにもうそこまで来ているようです。姿を見せなさい!」
女神アリアが離れた空間に向けて叫ぶと、その虚空に黒い
「ククク……、さすがは腐っても神。よく気付いたものだ」
「テメーか、ナギストリア……。何の用だ?」傷は癒えているが、やはり封印術の影響で大幅に力は落ちているな……。コイツは俺の過去の数千年に及ぶ心の中に存在し続けていた闇の部分の様な存在だ。
「アレが、過去のカーズ?! ……確かに前の姿に似てなくもない、かもだけど……」
彼女、アヤは以前の俺を知っている。でもあんなに陰険な見た目じゃなかったけどな。
「過去のお姿も素敵ですが……。禍々しすぎますね、あのオーラは……。やっぱり今の美女の様な美しいお姿の方が、わたくしは素敵だと思います!」
俺が新名を与えたエルフのディードが口を開く。しかしこいつは何を言ってるんだろうか? そして俺の見た目には触れないで欲しい。
ヤツが既に背から抜いている黒い大剣も元通りに修復されているし、漆黒の甲冑も同様だ。どうせあの三神のやったことだろう。
「力の大半を大神に奪われたのだ。それを補うため、貴様の神格を奪いに来てやったのだ。カーズ、俺の半身よ。他の奴らに用などない」
コイツ……、マジで舐めてるんだな……。天界での俺は儀式で弱っていた。実力など全く発揮できなかったとはいえ、そこまで舐め腐ってわざわざ出て来るとは。だがこれはいいチャンスだ。コイツ一人にこんな芸当が出来る訳がない、手引きした連中が必ず何処か近くにいるはずだ。
「テメー、舐めてんじゃねえぞ!!」
「一人で来るとはいい度胸ね。アンタ達の下らないお遊びに付き合わされたお礼をしてやるわ!」エリックにユズリハはすぐに火が付くな……。だが危険だ。
「待て二人共、アイツは神気を操れる。悪いがこれは神格を持っていないお前達じゃどうしようもないんだ。アリア、みんなを神気結界で守ってくれ、こいつは俺がやる」
「そいつは、凄く嫌な感じがするの……。カーズ、気を付けて……」心配そうにアヤが伝えて来た。
「ああ、大丈夫だから。アリアの後ろにいてくれ。アリア、任せたからな!」
「危険です! 一人でいくなんて!」 「そろそろ弟を信じろよなー、まあ見てろって」 「はあ、仕方ないですね……、言い出したら聞きませんし……。多重神気結界!!! これで此方は大丈夫です。気を付けていくのですよ!」強靭な結界を幾重にも展開したアリアに手を振ってから、ナギストリアへと歩み寄る。
「俺の……、みんなが託してくれた大切な神格を奪う……? それで失った力を取り戻そうってか? ふざけるなよ、相当舐めてるんだな……!」
<
心の奥底に眠る神格を解放、爆発させ、燃え上がった神気を全力で放つ。それと同時に体に装着される、銀に真紅のデザインが施された天上の神々が纏う神力の輝く鎧、
「アレが、神衣ってやつか…? とんでもない力を感じるぜ……」
「カーズ様が負けるなど、ありえません!」エリックとディードの声が聞こえる。ああ、絶対に負けねえよ。
「フッ、天界での貴様は儀式の影響でお荷物だったな。今なら全力を出せると言いたいようだが、後悔するがいい!」
「いつまでもあの時のままだと思うな。俺はお前をぶった斬るのに最早何の躊躇もない。来い、神剣ニルヴァーナ!」目の前に顕現される、輝く銀と真紅のオーラを纏う俺だけの神器。やはり凄まじい力を感じる。そしてその炎と冷気のリングに覆われた黄金の柄を左手でガシッと強く掴む。実戦では初めて使うというのに、これまでずっと使って来たかのように手に馴染む。さすがだよ、鍛冶の神ファーヌス。アンタの最高傑作、ありがたく使わせてもらうぜ!
「神器を手にしたところで貴様に何ができる、まずはこいつを受けろ!
ゴオオオゥッ!
天界で放った技か。奴を中心に黒い神気の衝撃波が放たれて来る。
「アストラリア流ソードスキル、クリムゾン・エッジ!」
ズヴァアン!!!
超高熱の刃で、目の前に迫り来るヤツが放った衝撃波を縦に地面ごと斬り裂き、破壊する!
「何ィ!?
ヤツに向け、加速スキルの
「アストラリア流など通用せんと言ったはずだ!!」
ズガガガシュッ!!! バキィン!!!
「
上下からの神狼の牙、同時二連撃を二発、4連斬。既存の二連撃しか防げなかったヤツの左の肩鎧を砕き、肉体に斬撃が入った。鮮血が飛び散り、ナギストリアが片膝を着く。
「お前は既存の基本技を知っているだけに過ぎん。何もわかっちゃいない。俺も以前はそうだったけどな。アリアが生み出した、神の流派がそんなに浅い訳がないだろうが。それにお前が知っていると勘違いしているのは俺が放ったことがある技のみ。俺は大剣スキルを使っていない。見て知っているのは|シューティング・スターズ《流星群》くらいだ。さあ、まだまだ続くぜ!!」
「くっ、小癪なっ!!」ドッ!! ズドドドドドシュッ!!!
「|ストーム・スラスト《嵐の突き》・
嵐の様な突きの6連打。数発は防御されたが、ヤツの甲冑を突き破り肉体へと刺突が突き刺さる! だが、まだこんなもんじゃ終わらないぜ!!
ズザンッ!!!! バキィイイイーン!!!
「ぐ、がはっ…、何だ…!? 今の連撃は……?」
「 こいつは俺のクソ親父の
「く…っ、いつの間にこんな力を……?!」
斬撃で体中は傷だらけ。鎧もまるで意味をなさない。それにヤツの大剣ではこの連撃スピードには対応出来はしない。
「テメーらが下らないことをやってる間に、こちとら神の試練に
ピキィイイン!!!
白く輝く鞘に、溜息が出るような美しい真紅の刀身が納められている刀へと変化した、俺の神器。手に取り前傾、利き手の左手を前に構え、抜刀術の体勢を取る。チキッ、右手の親指で剣の鍔を少しだけ持ち上げる。
「どうした? 抵抗しろよ、このままだと一方的だぜ」
「ぐ、おのれ……!」 「アストラリア流抜刀術」ズドドドドドンッ!!!
ヤツの体へと次々に突き刺さるような衝撃波が叩き込まれる!
「がふっ……!?」
「放った斬撃を更に神気と魔力で変化させ、銃の弾丸の様に相手に撃ち込む。俺のオリジナルだ。骨が砕けるほどの衝撃を撃ち込んだ。だがこいつはしぶとい、天界で目にしているからな。
「くそっ、ならば喰らえ! 黒の衝撃を!! ダーク・インパルス!!」
ドゴオオッ! パアーンッ!!!
ヤツの右掌から放たれた闇属性の衝撃・魔力撃を聖属性の魔力と神気を込めた左掌で叩き落す!
「な、あっ……?!」
「一度見たと言ったはずだ。対策してないとでも思ってるのか? 厨二野郎が。力が衰えているとはいえ、今迄の攻防でもう理解できた。お前は本来普通の人間。あの時は圧倒的な負の力でどうにかなっていたからわからなかったが……。お前と俺とじゃ戦闘経験の差が圧倒的に違うということがな。俺が神の試練でどんだけの数の魔物と闘ってきたと思ってるんだ? 神格が欲しいなら奪ってみせろよ。テメーはいつまでも過去の悲劇の主人公気取りのままなだけなんだよ!」 「ぐおおお!! おのれええええ!!!」怒りに任せ暗黒剣で斬りかかって来る。だが上からの斬撃か、体勢から見え見えだ。
ガイィィーン!!
右手の鞘に納刀したニルヴァーナで受ける。
「バカめ! 刀を抜かずに防ぐとはな!」
「バカはテメーだよ、アストラリア流格闘スキル・奥義!」ドゴオオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!!
残った左手拳で、がら空きの胴体に風穴を空ける程の強烈なパワーを込めたアッパーカットで天高く撃ち上げる!!
「アルティメット・ヘヴン!」
「ぐはああああああっ!!!!」ドゴォーーーーーン!!!
「がはあっ!!」
地面にクレーターが出来上がるほどの勢いで叩きつけられる。天高く撃ち上げた後に、一気に下界へと叩き落とされるかの様な凄まじい格闘スキル奥義。鎧はもう原型を留めていない。全身傷だらけで血塗れだ。だが執念で起き上がって来るナギストリア。そのタフさだけは称賛してやるよ。
「くっ、ならば…これを喰らうがいい……!」
大剣を突きを放つ様に構えた。アリア達の三位一体に破られたあの技か?
チキッ!
再び右手の親指で剣の鍔を少しだけ持ち上げ、抜刀の姿勢を取る!
「アストラリア流抜刀術・奥義……」
「やはりか、突き出した大剣から極黒のエネルギー砲が放たれて来る!
「
ドンッ!! カッ!!!
そのエネルギーに向けて突進し、それを飲み込む程の巨大な斬撃痕を空間に刻む!!
キィーン!! グゴオオオオオオ――――ッ!!!!!
振り向き、納刀。その瞬間、刻んだ斬撃痕から吸い込まれたヤツの放った技、そして神龍の剣圧と魔力に神気の奔流が一気にナギストリアに向けて迸る!!
「うがあああああああっ!!!」
渦に巻き込まれ、吹き飛ぶナギストリア。最早ボロボロだ。こいつには邪神パズズから奪った神格しかない。他の力を大幅に封じられた以上、神格の差では全ての神々から少しずつ、大半をアリアから分け与えられた俺に勝てるはずなどない。
そして更に戦闘経験の差だ。俺もまだこの世界に戻って一ヶ月ほどだが、女神アリアとの稽古に邪神、魔人、神の試練に
「ぐっ、ハァ、ハァ……、おのれ……、カーズ……!」
「もうお前に勝ち目はねえよ。立ってるのもやっとだろ? いつまでも過去に縛られた亡霊はここで消してやる。俺もお前の持っている記憶は一通り追体験したが、はっきり言って飽きた! 前に進むためにも、下らん過去などさっさと忘れるに限る!」 「なんだ…、と、貴様はあれだけの悲劇を、経験しておきながら、下らない、だと……!」 「ああ、下らねえよ。ただの胸糞悪い黒歴史と同じだ。そしてそこをずっとぐるぐると回ってるテメーも下らねえ。惰弱なのはテメーの方だろ。戻れニルヴァーナ、ソードフォーム」キィン!
片手剣の形状になった神剣の柄を両手で掴み、頭上高く掲げる。さあ正義の女神の奥義による断罪の一撃を受けて貰うぜ。
俺はほんの一月前は何の変哲もない、ただの病に苦しむ人間だった。有り体に言ってしまえば異世界転生ってやつだが、俺の物語は転生トラックや神の手違いで死んだとか、そんな単純なものじゃない。世界の因果や神々が関与した運命、一言じゃ言い表せないような複雑な事情が絡まり合って、俺は今この
これはそんな俺、カーズが紡ぎ、歩み始めることになった数奇な物語だ。
後方、王国南門、数㎞前の最前線。カーズがヨルムと共に大半の魔物を大地と共に穿った為、残りは眼前の約1万弱。士気も高く、このままいけば時間は掛かったとしても殲滅可能だろう。アヤが主だが、アリアも攻撃と共に援護にも回っている為、軽い負傷者はいても重傷者はほぼいない。だが騎士団の団長が二人揃って敵陣に飛び込んでいるので、指揮系統が乱れ、戦場は混戦と化していた。「うーん、このままチマチマと狩るのも飽きてきましたねー」(アヤちゃーん、ユズリハー、こっちに来てくださーい) アリアからの念話が2人に届く。(えっ?! アリアさん?! 気付かなかった、すぐ行きます!) テンションが上がりまくっていたユズリハは我に返り、念話の聞こえた方へ走った。(私も近くにいるので、すぐ向かいますね!) 見える位置にいたアヤもすぐさま合流。「ではではー、そろそろ飽きてきたので一気に残りを壊滅させます。二人共、アヤちゃんは聖属性、ユズリハは雷の魔力を私の手の上に全力で注いでください。融合と合成魔法の発動は私が更に魔力と神気を込めて行いますから。エリックには他の冒険者達や味方戦力と一緒に下がるように指示して下さーい」「わかったわ、何かとんでもないことやるのね!」(バカエリック――!!! 周りの味方と一緒に一旦退きなさい! アリアさんの魔法に巻き込まれるわよ!)(げぇっ! マジか! すぐに退くぜ!)「おい、お前ら!! 一旦最後尾まで退け! 死ぬぞ!!!」 周囲の味方に大声で指示を出すエリック。それに気付いた者達は直ちに撤退を始める。(クレア、レイラ、あなた達も一時撤退しなさい。団長が揃いも揃って指揮も執らずに敵陣で暴れるとは……、少しは冷静になりなさい。今から極大魔法を撃ちますよー) ユズリハ同様、我に返る二人。(う…っ、すみません、アリア殿。では他の冒険者達と一時撤退致します)(っ…、カーズ殿から頂いた武器で我を忘れてしまうとは……。私は何という未熟者なのだ……) シュンとして撤退する二人。「前線で闘っている者達! 今から極大魔法が放たれる! 今すぐ退け! 巻き込まれるぞ!!!」「死にたくない奴はさっさと退け!! 塵も残らねーぞ!!!」 クレアとエリックの大声で、前線で闘っていた者達は急ぎ、一斉に撤退する。そしてアリア達の後方まで全員が退いたが、ここぞとばかり
天界エリシオン。カーズが去った空間をアリアはじっと見つめていた。「……心配か? アリアよ」 ゼニウスが尋ねる。「……ええ、あの子は本当に真っ直ぐで純粋過ぎる。それに、何でも一人で背負い込んでしまうのです。本人はゆっくりと気楽に過ごしたいでしょうに……。その責任感や正義感から、いつも何かしらと問題に巻き込まれてしまう。それに怖れ知らずで無鉄砲、言い出したら聞きませんしね……」「随分とよく見てるんだな。確かにあの真っ直ぐなところは俺達からしても眩しいくらいだ。変わった人間だよな……。…愛しているのか? カーズのことを……?」「ファーヌス……。そうですね…、神格を分けた大切な弟として、でしょうけど。それに…、神である私にとって人の愛というものが一体何なのか、ということまではわかりませんしね……」 そのとき、アリアの体が眩しく輝き始める。「どうやら喚び出してくれたようですね。では行って参ります、お姉様、お父様」 光に溶けるようにアリアの姿が消える。「わからない、か……。だがその理解できない感情こそが愛なのだ、アリアよ。それを自覚したとき、お主は一体どうするつもりなのかのう……」 アリアが消えた虚空を見つめながらゼニウスは呟いた。-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 地上、クラーチ王国。迫り来る魔物の大軍。アヤにエリック、ユズリハはクレアとレイラの率いる王国、近衛両騎士団約2000の軍勢と共に南門で待ち受けていた。他国やリチェスターからの冒険者の応援も大勢来ている。王国の冒険者達は残念ながら役に立たない。大軍はまだ数㎞程先だが、すぐに此方へとやって来るだろう。「カーズにアリアさん、間に合わなかったのか……」 エリックが呟く。「……うん、でもきっと来てくれるよ。そういう人だからね」「アヤちゃんの言う通りよ、バーカ。それに私達だけでもやれるってところを見せてやらないとね。でも、それにしてもね……」「ああ、多いな……」 噂や伝承で聞いていた大魔強襲は、低ランクの魔物が多くても3万程度ということだっ
「おう、バカ息子、俺が現役時代に何て呼ばれてたか知ってるよな?」「はあ? ああ……、『フィールドの魔王』だろ? ファールされたら報復行為、鬱陶しいマークには至近距離から顔面にボール喰らわす、やりたい放題の傍若無人振りからつけられたんだろ? 自慢げに自分で言ってたじゃねえかよ?」 その御陰でこちとら『魔王の子』呼ばわりされてたんだよ、ガキの頃。ハタ迷惑過ぎるぜ。「テメーにもその本能があるってことだ。もっと自分を解放しろ、まだ腑抜けた気持ちで向かって来るなら……、死ぬぞ」 ギィン!! ガィン! ガキィ!! くそっ、後手に回ってたらいつかやられる、だが…… ガギンッ!! 薙ぎ払い、距離を取る。「いいぜ……、やってやらあ」 ダッ! 光歩で地面を蹴り加速!!「アストラリア流刀スキル」 上に跳躍し、その勢いで叩きつけるように斬り下ろす!「落陽閃!」 ギィン!! 刀で軌道を逸らされるが、着地と同時に吹き飛ばすように地面ごと斬り上げる!「翔陽閃!」 ガギィンッ!! ドガアッ!! 防がれたが、威力を全て殺しきれていない。上に重心が浮いたところを回し蹴りで足払い! 刃更士が体勢を崩しながらも後ろへ飛んで耐える。追撃だ、瞬時に納刀して距離を詰める!「アストラリア流抜刀術」 ガギィィィィィンッ!!! 刀での一撃目は剣を盾にして防がれる!「双龍!」 防がれた一撃目に被せるかのように残った右手で鞘を振るう二撃目!! ドゴォオッ!!!「壱の型」「うがあっ!」 二撃目の威力に耐え切れずに左へと吹っ飛ぶ刃更士。だが、倒れない、なんつーボディバランスだよ!? さすが海外リーグで鍛えられた元代表選手だぜ……!「あーあ、がっかりだぜ、二撃目が刃ならな。テメーはまだ躊躇ってんのか? ならもういいぜ、ここらで引導を渡してやらあ」 刃更士が刀を両手で持ち右肩上に構えた。切っ先はこちらへ向いている。何だ? 突きか?「いくぜ、ナギト……。剣の神の刀技、その身で味わいやがれ」 ススッ……、剣先が弧を描く様に見えた。 ザンッ!!!!「がっ……!?」 片膝が地面を着く。「神刀技・八岐大蛇」 何だ……?! 一瞬の内に、一度に八方向から斬られた……?? 魔力鎧装にヴェールを易々と斬り裂き、性能が
輝く大鏡の前に立つ。だが何かが変だ。目の前に立っている自分の姿が映らない。鏡じゃないのか? 何も映らない鏡? いや、俺の後ろのコロシアムの風景は映っている。俺だけが映っていないのだ。気味が悪いな……。「あーもう、何なんだよ? 今度は謎解きかー?」 どうしろってんだ? 壊す……のは違う気がする。ひとしきり周囲も裏側も調べてみた。鑑定もしてみたが、特に何もない……。表向きは只の鏡だ。表向きは…、俺だけが映らない鏡。こういうのもある意味テンプレか…、こういう時は……「嫌な予感しかしないが、時間を無駄にできない。仕方ないか……」 手の平で鏡面に触れる。 カッ!!!「ちっ、やっぱりかよ!」 触れたと同時に鏡が眩く光り、中へと吸い込まれる! 目を開けて周囲を見ると、先程のコロシアムの破壊場所が逆になっている。これは…、所謂鏡面世界って言う奴か? 俺自身は……? 変化していないな。ちゃんと鞘が右側にある。鏡にもう一度触れても…、やはりか、戻れない。鏡に背を向けて少し離れてから周囲をもう一度見渡す。アホ毛も反応はない。あああー、もうわけがわからん! 胡坐をかいてその場に座り込む。「くそっ、何が真実の答えだ。何もねーじゃねえかよ! しかも出られないときた……」 不満をぶちまける。ぶちまけたくもなるだろ? ゴンッ! 頭に衝撃が走る。げんこつ?「痛ってえー! 誰だ!?」 アホ毛には何も反応はなかったってのに。前方に転がるようにして距離を取ってから飛び起き上がり、振り返る。「なっ……!?」「おーおー、敵地でのんびり胡坐とは……。テメーはやっぱバカだな」「まあまあ、久しぶりに会えたと思ったらこんなに美人になってるなんてー!」 え? この人達は……? いや、俺の記憶の中の姿よりも若いが…、間違う訳がない。「と、父さんに、母さん……? なのか……?」「ああ? 親の顔を忘れるたあいい度胸じゃねえか、ナギト。しかし、本当に別人みたいになってやがるな。折角俺に似てイケメンだったってのによー」 そうだった、死んで美化し過ぎてたけどこういう人だった。個別特訓という名目で何度も死ぬほどしごかれたもんだ。「いや、俺はどっちかって言うと母さん似だったぞ。そんな輩みたいな顔してなかったよ……」 もう死んでるから好きな年齢の見た目なのか?
真っ暗な何処までも続く緩やかな下り階段。一段一段が大きく、空間も広い。眼前に迫る魔物の大群に狙いを定め、前傾姿勢、左手を前に構え刀を抜く体勢をとる。チキッ、鞘を握っている右手の親指で少しだけ鍔を押し上げる。「アストラリア流抜刀術」 神眼で捕らえた魔物の群れを全て一太刀で薙ぐ様な、風の魔力を纏った衝撃波を放つ!「飛天!」 ザヴァアアア―――!! 断末魔の声を上げて斬り裂かれていく大群。キィン、静かに素早く納刀する。さすがにこう何回も使わざるを得ない状況が続くと、超成長の恩恵もあって、慣れてくるものだ。魔物を片付けてから、次の一段を降りる。その瞬間、脳内に流れ込んで来る過去の自分ではない自分の記憶。「ぐっ、う、が、あああ!!」 一人分の悲劇的な人生の記憶が一気に流れ込む。一瞬の内にその人生を追体験する衝撃に、脳や心が悲鳴を上げる。頭を押さえ、地面に手を付き屈み込む。「くっ……、ハァ、ハァ…、よし、耐えたぜ……」 中に入ってから一段ずつ、ずっとこれの繰り返しだ。一段降ると魔物の大群、更に一段降ると過去の記憶の追体験。記憶が流れ込んでくるときはハゲるんじゃないかっていうくらいの頭痛に衝撃が心の中を駆け巡り、身動きができなくなる。 記憶と魔物が同時に襲って来るときもある。そのときは神気結界で身を守りながら、その痛みと衝撃が治まるまで待つしかない。そして治まった瞬間に自分を囲む大群の掃討だ。 もう自分が何段降ったのかもわからない。既に数千は優に超える人生の記憶を追体験した。正直情報量が多過ぎて、一々その一つ一つを処理している余裕はない。それに……「いい加減、飽きてきたな……」 超精神耐性はパッシブスキル、所謂常時発動中ってことだ。逐一発動させる必要がない。それにこれだけ何度も見せつけられると、どんな悲劇だろうが慣れてくる。良くも悪くも慣れとは恐ろしいものだ。最早その映像を映画館のスクリーンの前で他人事の様に眺めている感覚。どんな名作でも同じジャンルを立て続けに何回も視聴すれば飽きる。面倒なのは、その時の衝撃が物理的にキツイということだけだ。 そしてこの下り階段がある巨大な空間、光が全くない。探知や神眼は常時発動している。肉眼では何も見えないのだ。最低でも心眼がなければ入った瞬間に詰んでいた。さすが神の試練、酷過ぎる初見殺しだ。要するに
……ここは何処だ? 見たこともない景色に、地球よりも遥かに高度な文明。その街が、世界が炎に包まれている。逃げ惑う人々、悲鳴に叫び、銃火器の鳴り響く音。そこかしこで爆発音も聞こえる。人々を襲っているのは……、この高度な文明には似つかわしくない、時代錯誤のような剣や槍を手にした輝く鎧を纏った奴らだ。そして、これは……、地下深くの避難シェルターか? 避難しているのは……、前世の姿の俺とアヤ? いや、似ているが少し違う……。周りに身を寄せ合って震えているのは家族や友人達、その家族か? それに俺達の抱いているのは赤ん坊?! ドゴオオ――――ン!!! シェルターの壁が破壊される。「漸く見つけました。残りの清らかな魂の二人、いや、特異点の……」 これは……、泣いている、……アリアなのか? だが全身血塗れだ、返り血だろうか?「あの二人以外は殲滅かよ……。全く、嫌な仕事だ……」「天界の総意である以上、私達に拒否権はないわ……。二度目とはいえ……。苦痛を感じる前に魂を刈り取るしかない……!」 ルクスにサーシャか? だが何て冷たい目だ……。そして二人もアリア同様夥しい返り血で汚れている。「くそっ……、こんなところまで……。何なんだ、お前らは……?!」 震えている……? それに神の放つ神気による威圧で身動きが取れない。「私達は天界から降臨した神……。欲望に狂った全ての人間達の粛清……、そしてナギストリア、アガーシヤ、あなた方二人の魂の救済に来たのです……」「救済……だと? どういうことだ! 神が直々に人間を殺しておきながら……、何を言っているんだ……?!」「私とナギの二人だけ……? じゃあここに居るみんなは? それにこの子は……?! まだ産まれたばかりなのに……!」「……っ、申し訳ありませんが、例外は認められていないのです……」 涙を流しながら答えるアリア。「悪いな……、そういうことなんだ……」「せめて苦しまないように……、それが私達にできる唯一のこと……」 家族や友人達、その家族が次々と、一瞬の内に命を奪われていく絶望的な光景。悲哀、憤怒、後悔、引き離されまいと足掻く必死の抵抗。神の、人間の、互いの心の痛みが伝わって来る。 何度もフラッシュバックする絶望しかない光景。世界が、この地上が滅びる……。 誰か助けてくれ!! この神の名を語る悪魔共から…